熊井博基

熊井 博基 (くまい ひろき)

生年月日
1984年1月6日
出身地
宮城県仙台市
星座
山羊座
血液型
O型
好きなギタリスト
STEVIE RAY VAUGHAN、PAT METHENY、JOHN MAYER、RICHIE KOTZEN、DEREK TRUCKS、RORY GALLAGHER など
好きなCD
サラ・マクラクラン「afterglow」、パットメセニーグループ「STILL LIFE(TALKING)」 など
好きな映画
「スモーク」

熊井博基

彼の左手の指は、ぜんぶ右手より5mmぐらいずつ長い。 身体もこころもぐんと成長する時代に、たくさんギターを弾いてきた手だ。 熊井博基、26歳。 仙台の片隅で、ほんの数年前まで引き篭もりのような生活をしていた彼が、 とてもとてもうつくしい5つの音楽をたずさえて、扉を開けようとしている。

「最初は、ただギターを弾いていただけなんです。 15歳、ぐらいかな。部屋で、ひとりで。 親父が、自分が使ってたフェンダーのストラトをくれたから。 親父から教えてもらったコードは2つだけ。 ナインスと、…あと名前の解らないコード」。 ひとつひとつ、自分の口から出る言葉を確かめるように置いてゆく彼は、 その印象の通り、ひどく「言葉」というものにセンシティヴだ。 それは、自分が「言葉」というものを コミュニケーションツールとしてうまく使えていない、 という不安からなのかもしれない。

彼は、高校時代に不登校の時期を経験している。 はっきりとした理由があったわけじゃない、でも。 「友達もいたし、虐められたこともないんだけど、 当時は“ひとりでいたい”、それだけだった。 高校を卒業してからもそれは続いていて、とにかく卒業することで、 “高校とか友達グループとかのカテゴリーから、俺は開放されたんだ” そういうほっとした気持ちでいっぱいで。 予備校に通うとか、就職活動をするとかに思い至らなかった。 あの漠然とした気持ちはなんだったんだろう、と今でも思う。 自分でも明確な原因があるわけじゃないから、焦る気持ちも勿論あるんですよ。 でもやっぱり、動けなくて」。 我々にとって言葉は、とても優秀で便利な、意思を伝えるツールだ。 でも、彼にとっては、きっとそうは思えないのだろう。 ひとを傷つけて、自分を傷つけるのはいつも言葉だ。 だから、人と話すのが苦手になった。

熊井博基

そのかわり、彼はギターとメロディで、声で、感情を伝えることを選んだ。 そしてそれは、万の言葉を連ねるよりも真っ直ぐに、聴く人の胸に届くだろう。

「歌詞は、勿論考えて書いてるけど、どう捉えられてもいいと思ってるんです。 言葉は、なんでもいい。そのメロディを奏でる理由として、あればいい」。 言葉を軽んじてるわけじゃない。むしろ、とても大切だと思っているんだ。

いちばん初めに作った曲は、「スクロール」。 「歩いてる僕の風景が、どんどん後ろにスクロールして飛んでいく。 例え俺が立ち止まったとしても、背景だけがどんどん流れていく。 スーパーマリオブラザーズとかの、横スクロールのアクションゲームみたいに。そんなイメージです」。 ああ、そうだ。自分がアクションを起こそうと起こすまいと、時間や世間は動いてゆく。そんな彼のイメージがとてもすとん、と腑に落ちるのは、 僕らもコンピュータゲームのおもしろさにドはまりした世代だからかもしれない。 いや、正直にいえば、今でもそれは、続いている。 ささやかなモラトリアムを日常に飼っている感じで。

アルバムタイトルにもなっているのが、「変わらないもの」。 淡く滲むようなハスキー・ヴォイスがなぞる高音のサビに、 明るさと切なさが綯い交ぜになって響く。 変わらない。変わりたい。変わりたくない。変われない。 どれにもひとしく価値があって、ひとしく重荷なものなのかもしれない。

最後に、おきまりのことを訊いてみる。 きっと、アルバムを聴いたひとみんなが、一度は訊いてみたくなる質問だ。 ねえ、熊井くん。君にとって、「変わらないもの」って何かな。 そう尋ねたら、ちょっと困ったような顔をして、 「言葉としては、みつからないなあ…」とひとりごとのようにつぶやいた。

text by ナルトプロダクツ